どうでもいい、今更昔話[北アルプス・槍ヶ岳(1)]

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                    (槍ヶ岳でのブロッケン 1987/9)
垂直に近い岩場に鎖と鉄ハシゴ。最後のハシゴを登ると祠がある山頂だが、その手前の岩場で背中に括りつけたピッケルが岩に引っ掛った。弾みで保っていた三点支持のバランスが崩れ左手一本で全体重を支えた。その瞬間、自身の過去の全てが走馬灯のように駆け巡った。後にも先にもこの時だけであろう。これこそ単独登山の怖さかも知れない。
辿りついた山頂でへばった身体を持ち上げ祠のまえで手を合わせた。顔を上げるとブロッケン現象が稜線に出現した。

若い頃に読んだ「槍ヶ岳開山・新田次郎」の中の一節、

ー驚くべきものを見た
五色に彩られた虹の環が霧の壁の中に
五色の環の中心をなす赤色光は血のように鮮明
その環の中に人影、立影、座影にも見え 
仏の姿にも見えた 阿弥陀如来の来迎ではないのか
ありがたいとは感じなかった おそろしく感じた
その美しいものが突然大きな禍を
投げかけてくるのではないかと感じ合掌した
播隆は気の狂ったように名号をとなえたー

とある。
播隆上人の生きた江戸時代、天保の頃はこんな神秘を農民、信者は、御来如と信じきる。後には単なる化学現象であったとなるが、我々がこの山の穂先に立てるのは上人の作った岩場の鎖と鉄ハシゴのお陰である。
by mokuba-kobe | 2012-05-16 16:54